2 無線LANの設計

無線LANに限らず、システムの設計は以下の流れであろう。

要件定義
 お客様からの要件(何がしたいのか)を明確にする。
 どこで、どの端末で、どんな目的で利用するか。

基本設計
 上記の要件をシステムとしてどう実現するか
 機器選定、機器の設置台数、認証と暗号方式、無線コントローラの有り無しなど。
 電波調査を行い、実際の配置も検討する。

 ※無線LANのセキュリティに関しては、内容が多いので別章とした

詳細設計
 上記の基本設計を具体化するために、具体的な機器にてどう実現するか
 基本設計と詳細設計の明確な区分はない。感覚的なところが多い。
 上記の基本設計を受け、機器が設定できるようなパラメータを決める。

設定・構築
 上記のパラメータを基に機器に設定を入れ、設置します。
 電源、LAN配線、機器の取り付け(特に高いところは注意)などの検討も必要です。

試験
 テストをします。正常につながるかだけでなく、障害試験やローミングのテストもします。

運用
 利用者へのマニュアル配布や、日々の状態管理、ログ管理なども。 
ここでは、無線LANの設計に関して、以下の分類で解説する。

2-1(1) 無線LANの要件定義

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私が担当しているお客様が、無線LANを導入したいと言われました。
まずは何をすればいいでしょうか。

 はじめに、無線LANを、どこで何のために利用するかを確認する。その上で、無線LANの細かな要件を整理しよう。
 つまり、要件定義である。 

 2-1(2) 利用シーン(どこで使うか)
 2-1(3) 何をするのか
 2-1(4) 要件の確認

2-1(2) 利用シーン(どこで使うか)

要件定義の1つ目の項目として、どこで使うかという利用シーンを明らかにする。
たとえば、以下である。
 会議室などの配線が難しい場所で利用する。
 工場などの広い敷地を移動しながら利用する
 事務所(オフィス)や学校などで、有線LANの代わりに使う。
 大学やイベントなどにおいて、オープンスペースにて自由に無線LANを使ってもらう。
  
特に、屋外の場合は注意であり、屋外用であれば、11aの周波数は基本的に使えないし、APの種類も変わる。
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なんでAPの種類が変わるのですか? 
大した理由ではなく、雨風や雪、高温などに耐えられる頑丈で防水、高温や氷点下の温度にも対応できる機器になる。
他にもいろいろとお話しすることはあるが、次の「2-1(3) 何をするのか」の観点によって、設計が変わってくる。では、次も見てみよう。

2-1(3) 何をするのか

無線LANを使って何をするのかを明確にする。

たとえば・・・
がっつりオフィス業務をする
ストリーミングを含む動画の利用もする
音声通信を利用する
クリティカルな業務に利用する

このあたりは重要である。なぜなら、帯域と信頼性にかかわってくるからだ。例えば、Web閲覧程度をし、例え通信切れてもいいのであれば、無線LANコントローラも入れずに、信頼性対策としての冗長化や、帯域もそれほど考慮しなくていいだろう。遅かったら「ごめんね」で済むだろうし。
しかし、音声やクリティカルな業務で使う場合は、信頼性を考慮すべきである。また、動画や業務で使うのであれば、帯域をきちんと確保しないと、利用者からクレームが来ることになる。

ちなみに、無線IP電話は、ローミングするといろいろなところで問題がでているようだ。「二度と使わない!」とおっしゃるお客様も多く。メーカを含めて慎重な検討が必要。
基本的には、音声は無線IPではなく、従来のレガシー、有線IP、PHSでやるほうが無難だ。

2-1(4) 要件の確認

これまでの内容とも関連するが、より具体的に要件を確認しよう。

端末の種類
 無線LANを利用する端末はノートPCなのか、タブレット端末なのか?またはスマホでも使う?

端末の機種、OS
 上記に加えて、機器やOSも確認しておこう。例えば、タブレット端末は、最新型であっても、5GHz帯の11aに対応していないものがある。Linux端末でも無線LANは利用できるが、諸々の確認は必要だと思う。
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いまどきそんなのあるのですか?
全部対応してくれればいいのに。
2.4GHz帯に比べ、5GHz帯の無線LANは、周波数が高いこともあって、技術的には製造コストがかさむ。その分、無線LANのチップも高額になる。5GHzに未対応にすることで、端末価格を下げたいというメーカーの思いであろう。この点は、利用者のニーズでもあるから、仕方がない。無線LANシステムで対処していくしかない。

端末台数、同時接続台数
 端末台数によって、APの数が変わってくる。当然ながら、端末数が増えれば、APの数が増える。
 ただ、これは利用シーンにかかわってくるが、同時に何台接続するかの方が大事かもしれない。利用者は100人いるけど、会議室でたまに使う程度の場合と、利用者100人がメイン業務でがっつり使う場合ではAPの数が変わる。具体的には、前者であれば、AP1~2台でもいいだろうし、後者であれば、AP5~6台は欲しい。

通信データと必要帯域
 何を流すのか。具体的に確認する。同時に必要帯域である。動画系を見るのであれば、帯域は心配であろう。ただUstreamなどの動画も、実際に必要な帯域幅はそれほど多くない。別途記載予定であるが、数百kbpsだった気がする。それに、閲覧側で設定変更して帯域を落とすこともできる。同時アクセス数が増えて、誰も見られないという状態にはあまりならないかもしれない。
 音声を流すかはかなりポイントである。無線の場合、音声通信は途切れたりするから、利用者から評判が悪い。要注意である。詳細は設計のところで述べるつもりである。

2-1(5) 有線LANではダメなのか?(おまけ)

おまけではあるが、有線LANではなく、なぜ無線LANにしたいのかを確認したい。有線LANでもいいのだけど、なんとなく時代の流れで無線LANにしたいのであれば、そのリスクをきちんと説明しなくてはいけない。

josei
無線LANのデメリットで述べた内容を説明する。
可能であれば、有線LANがお勧めだ。安価で、信頼性も高い。運用も楽である。

あなたがシステムの運用管理者であった場合に、「なんとなく遅い」とか「つながらない」といった利用者からの問い合わせに対応するのは結構つらい。無線LANにする必要性が全くないのであれば、お客様と相談してみよう!

2-2(1) 基本設計について

要件が整理されたら、具体的な設計に入る。
 以下は、主な設計内容である。
 2-2(2) APの配置設計
 2-2(3) 無線LAN規格の検討
 2-2(4) チャンネル設計 →2-2(10) IEEE802.11nの設計も参照
 2-2(5) メーカと機器選定
 2-2(6) ネットワークの設計
 2-2(7) 無線LANのその他の設計
 2-2(8) 配線、設置、電源(PoE含む)の設計
 2-2(9) 運用およびその他の設計
 2-2(10) IEEE802.11nの設計

設計は、この順番の行うとは決まっていない。むしろ違う場合の方が多いと思う。
例えば、できるできないなどの細かな技術要素が決まってから機器メーカを決めるのが普通である。しかし、担当者の好みのメーカがあり、その機種でできるように設計を合わせることもあるだろう。

2-2(2) APの配置設計

どの部屋に、どうAPを配置するかを考える。フロア図面は必須かな。

前提条件
AP-135_RAP1台あたりの同時接続端末台数を決めておくとよい。
11a/g規格(54Mbps)の実効スループットを30Mbpsと仮定する。オフィスで業務としてがっつり使うのであれば、10人(一人当たり3Mbps)として計算する。それほどがっつり使わないのであれば、20人(一人当たり1.5Mbps)や30人(一人当たり1Mbps)と想定すればいいだろう。それ以上になると、衝突の関係で、厳しくなる。多くても30人程度に抑えておくのが賢明だ。

APの配置設計
 利用する端末台数や、求められるスループットなどを元に、APの配置設計をする。

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でも、その前に電波調査が必要では?
なぜなら、壁や障害物での減衰の大きさによって、電波が届く届かないが変わってきますよね?
 

 確かに、電波調査をしなければ、厳密なAPの配置は決められない。しかし、机上である程度の設計ができる。室内の壁であれば、概ね届くであろうから、その前提で机上で配置設計をするのだ。
 
i 

電波はどれくらいの距離が届くのですか?
それによって、配置が変わってきますよね。

 電波はかなり遠くまで届く。障害物がなくて、強い電波を出せば、100mでも平気ではないか(要調査)。
 机上設計では、半径20m(直径40m)程度で考えればいいだろう。実際のところ、見通しがよければその倍くらいでも届くだろう。
 また、APの配置に関連し、のちほどチャネル設計をする。ただ、その前に無線LANの規格(11a,b,g,n)を決める必要がある。
 ※チャンネル数が少ない11b/gでチャネル設計をしておけば、チャンネル数が多い11aでも対応できるという考え方もあるけどね。

チャネル設計
 APを配置設計と同時に、チャンネルが被らないようにチャンネル設計をする。
 チャンネルが被ってしまうと干渉をするので、必要に応じてAPの配置設計を見直す必要もある。チャネル設計をしながらAPの配置設計を考えるとよいであろう。
 構築後のチューニングとして、電波の出力調整を調え、電波を弱めることもある。カバーをつけて電波が飛ぶ範囲を抑える方法もある。
 →チャネル設計も参照

2-2(3) 無線LAN規格の検討

かなり簡易ではあるが、無線LANの規格を整理する。

規格 周波数帯 速度 屋外 障害物 干渉 距離
11b 2.4GHz 11Mbps 強い
11g 54Mbps
11a 5GHz
(W52,W53,
W56)
54Mbps ×
(W56〇)
弱い
11n 2.4GHz
5GHz
理論値は
600Mbps
規格
次第
同左 同左 同左
11ac 5GHzのみ 理論値は
6.9Gbps

※W52やW53などは、周波数帯の5.2GHzや5.3GHzから来ている。wはおそらくwave(波)。 g

あ、そもそもなんですが・・・
a/b/gの規格は互換性があるんですか?

b/gは互換性がある。b/gとaは全くない。周波数帯が違うから、別次元で動いている。例えていうなら、2階と5階で別々に通信しているようなイメージだ。
 →詳しくは、電波と周波数
j 
 
結局、どの規格を使えばいいのですか?
 最近は11b/g/a/nのすべてに対応した端末が多い。なので、11nを含めて全部の規格にて通信できる環境を作る(具体的にはAPやWLCを設定する)。PCやタブレットなどの端末にて自動接続させればいいだろう。

■参考
 細かく設計するのであれば、参考にしていただきたい。
・タブレット端末は、11a(5GHz帯)に未対応のものがあるので、その場合は11b/gを使うことになる。H24秋段階では、5GHzに対応していない機種の方が多い。端末価格が上昇するからだ。また、11nは未対応が多い。よって、11b/gを使うことを基本に考えた方がよいだろう。
・11aと11gは同じ54Mbpsであるが、11aの方が高速で安定していると思ってよい。それは、11gは11bとの相互互換による速度低下と、ISMバンドによる他の電波干渉を受けやすいからである。実効スループットを測定しても、やはい11aの方が速い。
・上記の理由(特に他の干渉が少ない観点)から、11aを軸に使ったほうがよい。使用できるチャンネルも多く、11nを使った場合も使用できるチャンネルが多い。
f

ところで、11gは11bの上位規格(後継規格)ですよね。
だったら、11bはもういらないのでは?
 

 まあ、無しでもいいでしょう。Arubaではできないが、メーカによっては、設定で11bを止めることもできる。ただ、11gに比べ、11bは距離が遠くまで届く。特に通信速度を1Mまで落とすと、さらに遠くまで届く。なので、広い工場などで、軽い通信だけでいいのであれば、有効にしておくとよい。Arubaの場合は、11bと11gを意識することなく、WLCに任せればよい。

2-2(10) IEEE802.11nの設計も参照いただきたい。

規格の変遷
各規格と、IEEEによる標準化時期およびそのスループットは以下です。
1997年 IEEE 802.11(2Mbps)
1999年 IEEE 802.11b(11Mbps)
1999年 IEEE 802.11a(54Mbps)
2003年 IEEE 802.11g(54Mbps)
2009年 IEEE 802.11n(600Mbps)
2014年 IEEE 802.11ac(6.9Gbps)

2-2(4) チャンネル設計

2.4GHzと5GHzでは使用できるチャンネルが違うので、別々に検討する。
 基本は電波が重複しなように、APを配置する。干渉は3次元で考える。つまり、水平方向(同一フロア)だけでなく、垂直方向(上のフロアや下のフロア)も考える。セル設計も参考にしてほしい。

2.4GHz 
1~13chまでが利用でき、5チャンネルの間隔をあけて、3つを使うことができる。1,6,11の3つを使う人が多いようだが、2,7,12でもいい。
海外製のタブレットなど、機種によっては12、13chが使えないなどの製品があるので注意が必要。
 数学の4色問題(別途解説予定)の関係で、チャンネル3つでは限界がある。APを配置してみると分かるが、密集状態ではどうしてもチャンネルが重複してしまう。
 チャンネルが4つ以上欲しいところだ。APの配置設計をすると、が、多少かぶっても大丈夫 
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昔は、1,5,9,13の4チャンネルで設計したことを聞いたことがあります。
 そうすればいいのでは?

間が4チャンネルだと、厳密には周波数帯が若干重複する。なので、最近はこの4チャンネルでの設計は少ないだろう。

5GHz
 2.4GHz帯に比べて、使えるチャンネルが多いので、設計は楽である。
 W52は36ch、40、44、48、W53は52ch、56、60、64ch、W56は100ch、104、…140chの11個。
 ただし、W53やW56は気象レーダーなどの各種レーダーでも使う周波数帯である。当然、公のレーダーを優先させる必要があり、IEEE802.11hによるDFSとTPCが必須である。

自動チャンネル設計
 最近では、上記のように固定でチャンネル設計をするのではなく、機械に任せて自動で設計する方法も増えてきた。ArubaでいうAdaptive Radio Management (ARM)である。
 自動であれば設定がめちゃくちゃ楽で、障害時や外来波の干渉時にも(製品にもよるが)、自動でチャンネルを調整してくれる。これは便利である。Arubaの場合は、ARMによる自動チャンネルとするのがよいだろう。
 とはいえ、ルーティングと同様に、固定の方が管理がしやすいという人も多いだろう。ただ、設定は少し面倒だ。Arubaの場合の設定はAPに固定でチャンネルを割り当てるを参照いただきたい。

11nの場合の設計
チャンネルボンディングをする場合、11nによって帯域は広くなるが、その分利用するチャンネルが減る。具体的には、2.4GHz帯の場合は2ch(たとえば3と11)、5GHzではw52とw53を使う場合、4chのみ使用になる。
このことから、2.4GHzの場合は、チャネルボンディングを使用しないことも選択肢であろう。
詳しくは、IEEE802.11nの設計に記載する。